それじゃ学生はその辺にだいぶ宿をとってるんでしょうと独仙君はなかなか承知しない。 ただあてこすりの高尚なる技術によって、からかい殺すのが本人のため功徳にもなり、また諸君の名誉にもなるのであります。 いきなり、毛布を頭からかぶって、ヴァイオリンを小脇に掻い込んでひょろひょろと一枚岩を飛び下りて、一目散に山道八丁を麓の方へかけ下りて、宿へ帰って布団へくるまって寝てしまった。 そいつは危険だ。 さて御約束の十時になって金善の前へ来て見ると、夜寒の頃ですから、さすが目貫の両替町もほとんど人通りが絶えて、向からくる下駄の音さえ淋しい心持ちです。 友愛の敵にあらずや。 右へ右へと爪先上りに庚申山へ差しかかってくると、東嶺寺の鐘がボーンと毛布を通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。 いえ、ある事はあるんです。 いつって、国へ帰ったら、ちゃんと、うちで待ってたのです。 いろいろ女の悪口があるが、その内には是非君の妻も這入る訳だから聞くがいい なるほどありがたい御説教だ。 だから応無所住而生其心と云うのは大事な言葉だ、そう云う境界に至らんと人間は苦しくてならんと独仙君しきりに独り悟ったような事を云う。 それで人迹稀なんですかと正面攻撃を喰わせる。 負けた方が何か奢るんだぜ。