これから秋の夜長をたった一人、山道八丁を大平と云う所まで登るのだが、平生なら臆病な僕の事だから、恐しくってたまらないところだけれども、一心不乱となると不思議なもので、怖いにも怖くないにも、毛頭そんな念はてんで心の中に起らないよ。 アーメンと迷亭先生今度はまるで関係のない方面へぴしゃりと一石を下した。 おれが鈴木の味淋などをのむものか、飲んだのは君だぜと主人は突然大きな声を出した。 全体いつ頃にヴァイオリンを買う気なんだいとさすがの迷亭君も少し辛抱し切れなくなったと見える。 こっちで待ってるんだと云い放った。 自ら求めて苦しんで、自ら好んで拷問に罹っているのは馬鹿気ている。 なに大丈夫です、探偵の千人や二千人、風上に隊伍を整えて襲撃したって怖くはありません。 一念万年、万年一念。 ただたいていのものは智慧が足りないから自然のままに放擲しておくうちに、世間がいじめ殺してくれる。 それも最初の三四十目は、石の並べ方では別段目障りにもならないが、いざ天下わけ目と云う間際に覗いて見ると、いやはや御気の毒な有様だ。 おやおや、とうとう生かしてしまった。 それから床を出て障子を開けて、椽側へ出て甘干しの柿を一つ食って…… いいですね。 僕の友人があすこへ奉職をしている頃吐月峰の印のある灰吹きを買いに出たところが、吐月峰どころか、灰吹と名づくべきものが一個もない。