よく気をつけんといけない だって 円覚寺の前に汽車の踏切りがあるだろう、あの踏切り内へ飛び込んでレールの上で座禅をするんだね。 その二三片がどう云う拍子か、坊ばの前まですべって来て、ちょうどいい加減な距離でとまる。 それでこの間の白雨の時寺内へ雷が落ちて隠居のいる庭先の松の木を割いてしまった。 泥棒も驚ろいたに相違ないが、まさか私が泥棒ですよと断わる訳にも行かなかったと見えて、すまして立っている。 主人は先から書斎のうちでその声を聞いているのだが懐手のまま毫も動こうとしない。 一体かしこまるべきものがおとなしく控えるのは別段気にするにも及ばんが、毬栗頭のつんつるてんの乱暴者が恐縮しているところは何となく不調和なものだ。 古井武右衛門――なるほど、だいぶ長い名だな。 当人は昂然として吾を軽侮嘲笑しているつもりでも、こちらから見るとその昂然たるところが恐れ入って頭を下げている事になる。 主人は久し振りで迷亭を凹ましたと思って大得意である。 いい恰好なの？　それが？　あんまりよかあないわ？　油壺なんか何で持っていらっしったの？ 今の若さに気の毒な事だ。 今日は少し弱ってるんだよ。