人が盗まれたのならいざ知らず、自分が盗まれておきながら、明瞭の答が出来んのは一人前ではない証拠だと、思い切って盗難品は……山の芋一箱とつけた。 うん電光影裏に春風をきるとか云う句を教えて行ったよ 　巡査はおかしかったと見えて、にやにや笑いながらあしたね、午前九時までに日本堤の分署まで来て下さい。 韓国統監もこの時代から御布令の尻尾を追っ懸けてあるいていたと見える。 あの容子じゃ華厳の滝へ出掛けますよ やむを得ず、少し語勢を変えていいさ。 私も……私も……ちょっと伺がうはずでありましたところ……何分よろしくと云い終って頭を少々畳から上げて見ると老人は未だに平伏しているので、はっと恐縮してまた頭をぴたりと着けた。 しかも恬として平然たるに至ってはちと一を催したくなる。 寄りついたのは古井武右衛門君をもって嚆矢とするくらいな珍客であるが、その来訪の主意がわからんには主人も大に閉口しているらしい。 面白いのね。 いわんや彼は歴乎とした二人の気狂の子分を有している。 独仙も口だけは立派なものだがね、いざとなると御互と同じものだよ。 あるものは活版摺で、あるものは肉筆である。 彼の精神が朦朧として不得要領底に一貫しているごとく、彼の眼も曖々然昧々然として長えに眼窩の奥に漂うている。